犯罪を未然に防ぐ「予知防犯学」を世に広める

パンデミックと予知防犯

NPO法人 日本防犯学校
理事長   阪本一央

 パンデミック (pandemic)という言葉を耳にしたことがあるだろうか?これは世界的な流行病に対する医学用語で、ある感染症が世界的に流行することを指す言葉あり「感染爆発」ともいう。世界的なパンデミックとしては、14世紀に欧州で流行したペストや19世紀以降7回の大流行を起こしたコレラ、89年前に全世界で約1億人の死者を出したスペイン・インフルエンザが有名である。そして今、我々人類が未だかつて経験したこともない最も恐ろしい強毒型の H5N1 型鳥インフルエンザウイルスから出現する新型インフルエンザウイルスによるパンデミックの脅威に曝されているのである。それはまさに時間の問題というところまで来ている。国連では、全世界で1億5000万人が死亡すると予測しているが、専門家の間では、その倍以上の死者が出ると推定している。以下に、列挙する項目は全て現実の問題として進行しているので認識していただきたい。

(1)2005年9月、米国ブッシュ大統領は国連総会において、新型インフルエンザ対策を「国家戦略」にすると表明し、国際的な協力体制の構築を提案した。米国では、この対策に8,300億円の予算を計上し、国民には最低10日分の食料、日用品の備蓄を要請し、流行時の行動制限等の対策を公表している。

(2)新型インフルエンザウイルスによるパンデミックは、1918年のスペイン・インフルエンザ(世界人口18億人中、5億人が感染し1億人が死亡、日本では45万人が死亡)、1957年のアジア・インフルエンザ(全世界で200万人が死亡)、1968年の香港・インフルエンザ(全世界で100万人が死亡)の3回起きているが、いずれも鳥インフルエンザウイルス由来の弱毒型インフルエンザウイルスによるものである。

(3)現在、世界各地で超強毒型のH5N1型鳥インフルエンザウイルスの人への感染が拡大しており、WHO(世界保健機関)が認知確定しているだけでも、381人が感染し、そのうち240人が死亡している(2008年4月17日現在)。致死率はなんと63.0%に達している。 WHOが発表している危険度を示す6段階の表示によれば、既にフェーズ#3(動物から人への感染が見られるが、人から人への連続的な伝播はない)まで来ているが、2006年5月に起きたインドネシアでの家族内集団感染で7人感染して6人が死亡した例は、限りなくフェーズ#4に近い状況に来ていることを示唆している。

(4)WHOがまとめた国別感染者数によると、インドネシア(34.6%)、ベトナム(27.8%)、エジプト(13.1%)、中国(7.9%)、タイ(6.6%)の5ヶ国だけで全世界の約9割の感染者数を記録している。従って、これらの地域から新型インフルエンザウイルスが生まれる可能性の高いことが示唆される(カッコ内は全世界における感染者比率)。

(5)この強毒型鳥インフルエンザウイルスに感染すると、全身感染が起こり、あらゆる臓器が破壊され出血する。さらに恐ろしいのは、サイトカインストーム(防御免疫機構の過剰反応)によって、身体が過剰反応を起こし自らを痛めてしまい、その結果あらゆる臓器に障害(多臓器不全)が出ることである。この症状は若い人ほど顕著で、致死率は10歳代で最も高く73%、20歳代で63%、次いで30歳代となっている。

(6)厚生労働省の予測によると、日本の人口の約25%にあたる3,200万人が感染し、0.5%にあたる64万人が死亡すると試算している。但し、この値は過去の弱毒型ウイルスを想定してはじき出された結果で、かなり低く見積もられている。専門家の間では、強毒型の場合、少なくともこの3倍以上の210万人が死亡すると見ている。

(7)東京都が2005年12月に発表している行動計画によれば、都民の30%(378万5000人)が罹患すると予測している。また、東京都にある18箇所の火葬場の処理能力が、それぞれ1日100体であることから、遺体の一時安置場所として、都内の体育館やスポーツセンター等の公共施設を使用し、さらにそれを超える事態の場合に備え、代々木公園や砧公園などの都立公園を一時的埋葬場所にするように計画している。

 これらは、ほんの一部の情報に過ぎないが、このような重要な情報を、現時点で日本国民のどれだけの人が知っているだろうか?WHOによれば、新型インフルエンザの出現を阻止することはもう不可能で、近い将来、必ず世界を同時に巻き込むパンデミックが起きると断言している。高速大量輸送システムが確立している現代社会では、ひとたび新型インフルエンザウイルスが発生すれば、4〜7日間で世界に拡がると予想されている。このパンデミックを防ぐことが出来ない今、最も重要なことは、この情報を今の段階で国民全員が共有することである。それが被害を最小限に抑えるための唯一の対策となる。今であれば、最悪のシナリオを想定し、多少オーバーな情報として公表しても大騒ぎになることはない。寧ろ、国民全員にパンデミックに対する関心と意識を持ってもらい、そこから正しい知識を学んでもらって対策を実行するという流れが欲しい。これは、正に日本防犯学校学長の梅本が、日頃から予知防犯の基本として教えている流れ(3大要素)である。シリーズで掲載しているように、医療と防犯は相通じるところがある。

 予知防犯の立場から、さらにパンデミック時の想定を進めると、空気感染する新型インフルエンザウイルスによって、多くの感染者、患者が出ると、医療施設は満員となり、院内感染も拡がって医療従事者もダウンし病院が機能しなくなる。また前線で働く救急隊員や警察官へも感染が拡大し、さらに物流や交通機関、食糧やエネルギーなどのライフラインにも大きな影響が出ることは間違いない。もし日本で警察力が無くなってしまったらどうなるだろうか。パンデミックでパニック状態に陥って冷静さを失った国民の一部は暴徒化し、犯罪に走る人間が必ず出てくる。生きるために食糧品を奪う目的であったり、金銭目的であったり、乱暴目的であったり目的は様々だが、何をしても警察が来ないとなれば何でもありの状況が生まれる。こうなると、警察力で成り立っている警備業も威嚇効果が失われ無力となる。CP建材も警察力があっての5分という時間設定であり、CP認定試験以上の破壊力を持った工具を自由に使え、時間も無制限、大きな音も関係なしという恐ろしい状況が生まれる。

 まだ、防犯と繋げてパンデミック対策を意識している組織はないが、日本防犯学校では、様々な新しい情報をこれからも先んじて配信して行き、犯罪被害に遭う前に警鐘を鳴らして行く。

(セキュリティ研究2007年2月号 平成18年12月30日寄稿より一部データ更新)

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(参考文献)
1)パンデミック・フルー 新型インフルエンザXデー ハンドブック(岡田晴恵著、講談社発行)
2)新型インフルエンザ・クライシス(外岡立人著、岩波書店発行)
3)新型インフルエンザ 世界がふるえる日(山本太郎著、岩波新書発行)