犯罪を未然に防ぐ「予知防犯学」を世に広める

パンデミックと予知防犯−V
〜企業・家庭も具体的な行動計画策定を〜

NPO 法人 日本防犯学校
理事長  阪本一央

 本誌においてシリーズで掲載している「新型インフルエンザ」情報について、今年に入って漸くマスコミでも取り上げられるようになり、徐々にではあるがその情報が国民に伝えられつつある。しかし、「インフルエンザ」という病名の影響で、「風邪」と「インフルエンザ」との違いさえ殆ど認識できていない多くの人達は、それほど深刻にこの「新型インフルエンザ」を受け止めてはいないだろう。もはや、この病原ウイルスは、「新型殺人ウイルス」と命名した方が近い状況にあり、「中性子爆弾」同様の被害が出る。インドネシアでは既にH5N1型鳥インフルエンザによる死者が100名を超え致死率も81%に達している。また、これまで症例の無かったインドでも家禽への被害が爆発的に拡大している。

  厚生労働省が発表している「新型インフルエンザ対策行動計画」のベースは、1918年のスペインインフルエンザの被害データに基づいている。人類が過去100年の間に経験した3回のパンデミックは、いずれも鳥インフルエンザウイルスから発生した「弱毒型」の新型インフルエンザウイルスが病原であり、今、その出現が問題になっている 高病原性H5N1型鳥インフルエンザ由来の 新型インフルエンザは「強毒型」のウイルスになることが予測されている。つまり、人類が今まで経験したことのない未知の強毒ウイルスで予測不能な被害がもたらされる可能性がある。90年前のスペインインフルエンザが流行した際、日本国内でも甚大な被害が報告されている(当時の人口5,600万人のうち42%が感染し45万人が死亡)。先の厚生労働省のデータでは、国民の25%が感染し、そのうち64万人が犠牲になると推定している。現在、日本の人口は約1億 2,770万人で、90年前と比べると交通機関も飛躍的に発達して人の移動も多く人口密度も高くなっていることから、同程度のウイルスが発生したとしても、それだけの被害で収まるとは到底考え難い。

 オーストラリアのシンクタンクであるLOWY研究所が2006年2月にパンデミックによる世界各国の経済的損失と人的被害の予測を報告している。発生源の可能性が高い東南アジアからの地理的条件と各国の医療体制を考慮した、かなり現実に近い数値が示されており、この報告書によると日本国内でも最大214万人が犠牲になる可能性が示唆されている(表参照)。厚生労働省では感染患者に対して致死率を2%で見積もっているが、この報告書では日本における被害の最大致死率を 6.7 %で算出している。

 しかし、現在、人に感染が見られているH5N1型鳥インフルエンザウイルスの致死率は世界平均で63%に達している。このウイルスがさらに変異を繰り返して人に効率良く感染できる新型ウイルスになった時にどの程度まで致死率が低下して拡大するかによるが、米国保健省が昨年実施した報道関係者を対象にした机上訓練では、致死率を20%と推定している。これを厚生労働省が発表している25%の感染者3,200万人に単純に当てはめると、約640万人に相当する。半分の10%と見積もっても約 320万人もの死者が出る計算であり、実に厚生労働省が予測している5〜10倍もの死者に相当するが、これほどの被害も可能性が全くないわけではない。

 こういった状況を一般人よりは理解していると思われる大学病院などで働く約1万人の医療従事者を対象に実施した最近のアンケート調査によると、パンデミックが発生した際、感染する恐れを抱いた31%の看護師と17%の医師が転職を希望しているという結果からも、その深刻さがうかがえる(読売新聞、 2008年1月28日掲載)。

 では、我々は今何が出来るのか?何をしなくてはいけないのか?具体的に考えなくてはいけない時期に来ている(次号に続く)。

(セキュリティ研究2008年3月号 平成20年2月12日寄稿)

 


→パンデミックと予知防犯
→パンデミックと予知防犯-U
→パンデミックと予知防犯-W
→パンデミックと予知防犯-X
→パンデミックと予知防犯-Y
⇒TOP