犯罪を未然に防ぐ「予知防犯学」を世に広める
パンデミックと予知防犯−U

NPO 法人 日本防犯学校
理事長  阪本一央

 今年に入り宮崎県で3例続いた鳥インフルエンザは、3月に東国原英夫知事が終息宣言を出して事実上一段落した。それ以降、国内で鳥インフルエンザの話題が報道されることは殆どなくなり国民の記憶からも遠のいている。寧ろ、連日起こる凶悪犯罪、悲惨な殺人事件によって塗り替えられてしまっているのかもしれない。恐ろしい話であるが、最近はあまりにも残忍な事件の報道が多すぎて感覚が麻痺している感もある。
  さて、既に2月号で紹介したように、鳥インフルエンザの人間への感染はアジアを中心に徐々にではあるが確実に進行している。特にインドネシアでの感染者の増加が顕著で致死率も約8割に達する深刻な状況になっている。日本政府は、昨年から主にアジア諸国を対象として 抗インフルエンザ・ウイルス薬等の備蓄支援などの名目で2.22億ドルの資金援助を行っている。
  国内でも3月26日に新型インフルエンザ専門家会議が開催され、「新型インフルエンザ・ガイドライン(フェーズ4以降)」が策定され、検疫や医療体制、医療施設の感染対策、ワクチン接種、抗インフルエンザウイルス薬などに関する様々なガイドラインが示された。基本的には新型インフルエンザによるパンデミックを避けるための早期封じ込めのための戦略である。この中に、普段聞きなれない法律の特例がパンデミック時には認められることが示されている。前回にも述べたが、パンデミックの際には、死亡者数が火葬場施設の火葬能力を超える事態が起こる。そのため、火葬の円滑な実施に支障を来たし、公衆衛生の確保上、火葬に付すことができない遺体の保存対策が大きな問題となることから、各都道府県では公園などを一時埋葬場所にしようと計画していることは既に紹介した通りである。「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)等において、墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号、以下「墓埋法」という)で、24時間以内の埋火葬禁止規定の特例として、指定感染症である新型インフルエンザによって死亡した者については、感染防止の観点から24時間以内の埋火葬が認められるとともに、このような病原体に汚染され、またはその疑いがある遺体は原則として火葬することとされている。

  我々はこの一世紀の間に3回の新型インフルエンザによるパンデミックを経験している。最も最近は約40年前に溯るが、その時と現在では社会が大きく異なっている。アジア開発銀行が今後起こりうるパンデミックの際のアジア経済に与える影響を試算した結果、最も少なく見積もっても、その被害想定額は2,827億ドル(約34兆円超)としている。経済が破綻し将来を見失った人々がとる行動は予想もつかないが、恐らく国内においてもパンデミック時には、略奪や暴動が横行することになるだろう。新型インフルエンザによって多数の死者が出て、検死なども満足にできない状況の中で、「墓埋法」が適用されると、どのような事態になるか想像するのも恐ろしい。新型インフルエンザ感染の恐怖と同時に犯罪に巻き込まれて傷害を被る恐怖、どちらも運悪く死に至った場合、混乱の中でまともに処理されることは考え難い。凶悪犯罪が横行し過ぎて感覚が麻痺しかけている国民と、自分の欲求を満たすためなら人命はただの障害物くらいにしか感じない人々が多くなる中で、近い将来パンデミックは確実に起こる。パンデミックに関してのガイドラインは、主に感染防止、医療、公衆衛生の問題しか論じられていないが、今後は予知防犯の見地から、パンデミックが起こることを想定した防犯対策、心構え、意識を国民に教育することも重要なことであると考える。

(セキュリティ研究2007年8月号 平成19年7月3日寄稿より一部データ更新)

WHO に報告されたヒトの高病原性鳥インフルエンザ A ( H5N1 )感染確定症例数 (2008年4月17日現在)

出典:WHOデータから改編



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